猫を起こさないように
日: <span>1999年2月21日</span>
日: 1999年2月21日

このHPというかたち ~一万ヒット御礼小鳥猊下講演禄~

 「よく官能小説なんかで男性自身って言葉がありますよね。これは要するにチンポを婉曲的に表現する記号なんですが、じゃあ、雑誌に女性自身ってありますよね。あれはつまり…そうなの?」
 「あっ。小鳥猊下が国民の中に潜在的に存在する、女性化粧品の容器はすべて男性器のかたちを模して作られていますといった俗説と同程度の信憑性を持ち景気を悪くさせている疑問をおずおずと発話しながら軽快なフットワークを使いながら御出座なされたぞ」
 「ああ、なんてエロティックなダンディズムなのかしら。私の女性自身も大洪水よ!」
 「ねえ、そうなの?」
 「……なわけで破裂しちゃったんですね。おや。今の爆笑どころなのになぁ。え、何? マイク入ってなかったの? ふぅん。あれっ。今日の責任者は女の子なの。へえ。若いねえ。年いくつ? 18。そうでもないか。男性経験はあるのかな。無い? いまどき珍しい娘さんだね。バイトいけないんじゃないの。ほぉ。母親に死なれて病気の父親がひとり。泣かせるねえ。浪花節だねえ。うんうん、あとはこの猊下君がいいようにしてあげるからさ。それじゃ早速だけど捧げさせちゃって。そう、捧げさせるの。二度言わせないでよ。いくら温厚な僕でもいい加減怒るよ。今の世の中貞操なんて邪魔なだけじゃん。いっそ無くしちゃえばこんな時給800円ほどの割にあわないバイトしなくても、もっと効率よく稼げる手段も生まれてくるじゃん。慈悲だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの御慈悲ですよ。けけけっ。
 「……ええっと、何話してたんだっけか。こういうのって計算のない無意識からの抽出が大事なんだよね。あ~ぁ、さっきまでいい調子だったのにムカつくなぁ。ねえ、きょう上山君来てる? あ、来てる。上山君に栄誉ある貫通式のおつとめを果たさせてあげてよ。そう、アニメプリントシャツの口臭とワキガと吃音のひどい、水平方向と垂直方向に同時にチャレンジされている、僕が自分の優越感を満たすために面接で猫背ぎみにこの世の原罪すべてをしょって立つ様子で入ってきたのを見た瞬間に一発採用したあの上山君にだよ。二度言わせないでよ。いくら温厚なぼくでもいい加減怒るよ、ほんとに。今日初めて出会った彼氏彼女の事情ならぬ情事がいったいどのようなものになるのか興味はつきませんよ。いやぁ、つまらないつまらないと不平を言う行き着いた日本人の毎日、あればあるもんですねえ、こんなイベントは。これだから人生あきらめきれませんよ。あ、ちゃんとビデオまわしといてね。講演終わったあとで見るからさ。あの上山君のことだから目が合った瞬間に射精しちゃうんじゃないの。あんな可愛い子だし、他の童貞バイト少年たちがやっかんで路地裏で死ぬまでボコっちゃうかもね。あ、そこまで追いかけてビデオまわしとくんだよ。エンディングは血塗れの上山君にスタッフロールがかぶさってさぁ。作品だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの作品ですよ。けけけっ。
 「……さてこのHPなんですが、みなさんからよく聞く批判にベタ書きでたいへん読みにくいというのがあります。せっかくそれができる方法が存在するのだから、文字の大きさを変えるだとか、文字の色を変えるだとかして、もっと視覚的に受け取りやすくしてみてはどうかというのが彼らの弁なのですね。しかしそれは違うと思う。それは、例えばここ数年のお笑い番組でよくやるような、笑うポイントをわざわざ視聴者に指示して下さる我々の知性と感性に極めて懐疑的な効果音やらテロップやらとまったく同じことをやっている。元の素材が多少おもしろくなくても、そういった付加的な要素で無理矢理に笑わせてやろうと言うわけですね。それらのやり口に似たテキスト加工行為は、書き手の知性に対しても読み手の知性に対してもこの上ない最大級の侮辱であるとぼくは思うわけです。あなたたちはもっとその侮辱に怒らねばなりません。
 「顔面を愛人のホステスとの情事の最中にずたずたに切り裂かれたみじめな男性の死体の映像であっても、股間に”禁”のマークを入れ、二回ほども『ぱお~ん』と象の鳴き声をかぶせれば、それはお笑いになるんです。こんな表層的な幻惑にまどわされてはいけません。あなたたちは発信する側が隠そうとしている本質をこそ見抜かねばいけません。例えば、元のテキストが本当のところ少しも面白くない、といったようなね。まァ、私の場合は常に何の秘し隠しもなくチンポ丸出しアヌスおっぴろげですからみなさんは何の心配もありませんけれどね。あっ。婦女子のみなさんは目のやりどころにお困りになるかな。(会場爆笑)
 「あ~ぁ、疲れたよ、ほんと。ねえ、どうだった? ちゃんと貫通した? どう、やっぱりあんな黙示録的な顔面の男に貫かれるのは辛そうだった? あっ、だめ。言わないで。こういうのって日活ロマンポルノとおんなじでちゃんとストーリーを追わないと面白くないからさぁ。ちゃんとビデオ撮れてるだろうね。いいとこで切れてたりしたら温厚なぼくでも怒るよ、ほんとに。ああ~ぁ、アワビ喰いてえなぁ、アワビ。店予約してきてよ。ちゃんとビデオも見れるようにセッティングしといてよね。シャワー浴びたらすぐ行くから。
 「……うう、寒い。えっ。なんでぼくがやらなかったのかって? 基本的にぼくってインポだしさぁ、それに18なんてトウが立ちすぎてるじゃない。触るのも汚くていやだなぁ。けがれですよ。ああ、それとさっきのやつ見て良かったら売り出すから。小鳥レーベル第一弾として。会社作っといてよ。これであの娘の家庭も救われるってものさ。現物を見たら病気で弱った親父さん、逝っちまうだろうけどね。二重の意味でね。けけけっ。いやぁ、いいことをしてすがすがしい気分だね。それにしても寒いよなぁ。ハイヤーまだ来ないの。渋滞であと二十分かかる? ふぅん。あれっ。今日はおかしな日だなぁ、また女の子じゃない。若いねえ。年いくつ? 15。ふぅん。捧げて。そう、ぼくに捧げるの。こら、待て。待ちなさい。スリット、スリットォォォォォォ!